コンピCD【STARFISH&COFFEE】Compiled by SAMATA インタビュー(前編)
コンピCD 『STARFISH & COFFEE』 を作り上げた横浜「GrassRoots yokohama」オーナー「SAMATA」インタビュー
1月20日に全国発売されたコンピレーションCD『STARFISH & COFFEE』。
世界基準で活動する日本人アーティストのCD未収録曲や別ミックス曲等、特に貴重な音源を集めた注目の1枚であり、同時にこのCDはとある飲食店で繰り広げられてきた出逢いとライブの記録でもあります。
このCDをコンパイルしたのは横浜で飲食店「GrassRoots」を営む「SAMATA」さん。自身もDJとして活動するSAMATAさんに、収録したミュージシャンとの出会い、「GrassRoots」というお店やそこから始まった出来事について伺いました。
Interview with SAMATA (GrassRoots)
Text by RyoheiMineo(MAMEBOOKS)
*SAMATA
【コンセプト】
◇CDの発売おめでとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願い致します。
SAMATA:オッス、ありがとうございます。横浜で「グラスルーツ」という飲食店をやっているSAMATAといいます。お店は横浜駅西口徒歩7-8分のところにあり、おかげさまで今年で19年になります。基本は飲食店ですが、不定期で音楽ライブやライブペインティングのイベントを開催していて、店内の壁を使って絵や写真の展示も行ってます。
◇今回のコンピレーション『STARFISH & COFFEE』には幅広いジャンルで活躍する日本人アーティストの楽曲が収録されていますね。昨年に制作されたものから、古いものだと10年以上前の楽曲もありますが、このCDのコンセプトについて教えてください。
SAMATA:オッス。コンセプトは大きく2つあります。1つは「今まで店でライブをやってくれたり、ご縁があったミュージシャンの音源をひとつに纏めて出したい」ということ。もうひとつは、そのなかでも「世の中にあまり出回っていない音源に光を当ててみたい」という気持ちがありました。収録曲には正規リリースされた音源も数曲ありますが、その多くは未発表や、デモや手売りのCD-Rに入ってた音源だったりします。すごく素晴らしい曲なのに時期が早すぎたり流通を通していなかったり、色んな理由でメジャーな流通に乗らなかった曲たちを、「これを機会に多くの人に知ってほしい」と言うとおこがましいかもしれないけれど、そういう気持ちで纏めました。人によっては大げさでなく世界的に活躍してるミュージシャンもいるのに、日本ではなぜかなかなか知られていなかったりもする。そういう人を、今回のCDをきっかけに「もっともっと知ってほしい」という気持ちがあります。幸運にも横浜で店を19年やってこれまして、店のなかや外でたくさんのミュージシャンに出会うことが出来ました。そうしたご縁をひとつの「カタチ」にしてみたいと思ったのがこのコンピレーションを作るきっかけですね。
◇Shing02やKOJOEといった現行のヒップホップから、SOIL&“PIMP”SESSIONSやjizueなどのジャズ~ジャム系、そしてSOFTやblissedといったバンドまで、収録曲が本当に多彩ですね。
SAMATA:曲を提供してくれたすべてのミュージシャンが、店に遊びに来てくれた人や、またその人に紹介してもらって出逢ってライブをやってもらったりしてきたミュージシャンです。単に「ミュージシャン」と「店の人」っていうビジネス的な関係だけじゃなくて、店で出逢って、そこから個人的にも色んな話をさせてもらってきた人たちになります。いち音楽リスナーとして「特定のジャンルを掘り下げて聴いて知った」というのとは違い、店の内外で出逢ってきた人たちの曲を入れています。なので、店のことを知らない人から見たら、ジャズ、ヒップホップ、ダブ、インストやラップも入ってるし、ジャンルがバラバラで統一感や繋がりがないように見えるかもしれないですが、実は「お店での出逢い」というのがまず芯にあって、またミュージシャン同士もそれぞれ交流があったりします。そういうところも「コンピレーションCD」という形で見せたかった、というのがありますね。
◇これだけ幅広い楽曲が入っているのは「コンピレーションCD」としても珍しいと感じました。GrassRootsで行われているライブもこれだけ幅があるということですね?
SAMATA:そうですね。「音」もそうですが、「人」で知ったり繋がったりすることが多いせいかもしれないですね。自分自身、「あり得ない組み合わせ」みたいのが好きなんですよね。ミュージシャン同士の一晩限りのセッション(演奏)もそうですし、「これとこれが組み合わさったらどうなっちゃうんだろう?」というドキドキとか、すごく好きですね。たとえばジャズならジャズでそればかりを掘り下げるリスナーもいると思うんですが、今回のコンピに入っているひとつのバンドのファンの人が、これをきっかけに今まで知らなかったり聞かなかった他のバンドやジャンルに出会ってくれたら嬉しいなと思います。
◇タイトルの『STARFISH & COFFEE』もそれに関係していたりしますか?
SAMATA:まさにそんな気持ちからつけました。直訳すれば「ヒトデとコーヒー」という意味ですが、プリンスの曲にあるんですよね。その曲ではあり得ない組み合わせや全然関係ない事柄が次々と歌われるんですが、「心を自由に開いてみれば 君もきっと解るかもしれないね」という部分がすごく好きで、そういう思いからこのタイトルをつけました。
◇Prince / Starfish & Coffee (アルバム『Sign 'O' the Times』収録)
* Toshizo Shiraishi、元晴、みどりん and 秋田ゴールドマン at GrassRoots Yokohama(So-ill 2009/08/25 photo by Kunihiko Sasaki)
【大きな出逢い - 元晴とToshizo Shiraishi - SOIL & "PIMP" SESSIONSとblissed】
◇では実際に出逢っていったミュージシャンについて聞かせてください。
SAMATA:オッス。
◇このなかで最も古いお付き合いといえばどなたになりますか?
SAMATA:「元晴」と「トシゾー」(Toshizo Shiraishi)になるかなと思います。店の常連に「ヌカ(Nuka)」ってやつがいるんですが、今振り返ればそいつが色んなことの始まりでした。ギタリストでもあるヌカは今は「駱駝」というバンドをやっているんですが、元々は「BIG HIP BAND」という3ピースのバンドをやっていました。彼らが自主制作CDを出した時に店でライブをやってくれて、そこに飛び入りで来てくれたのが「元晴」でした。当時はまだ「SOIL & "HEMP" SESSIONS」名義の頃で、「urb」もやってたんじゃないかなと思います。そのライブでの元晴のサックスにやられちゃって、話してすぐ意気投合して、下手したらその晩にもうそのまま遊びに行ってたかもしれないです。そこから元晴との付き合いが始まっていきました。元晴とのことで忘れられないのは、ソイル(SOIL & "PIMP" SESSIONS)がメジャーと契約して、ヨーロッパでもライブをやるようになった頃、元晴は変わらず店に来てくれてたんですけど、あるとき冗談まじりに「有名人になっちゃって、もう街とか歩けないんじゃない?」って言ったら、元晴が「サマさん、俺らここ(グラスルーツ)で同じメシ喰ってる仲じゃん。今までも今も同じだよ」って言ってくれたんですよね。そこから本当の意味でなんでも言い合える仲になったのかなと思います。
*SOIL & "PIMP" SESSIONS
◇そんなソイルからは、ジャズクラシック「Spartacus Love Theme」のカバーが収録されてます。
SAMATA:今回入れたソイルの曲「Spartacus Love Theme」はアルバム『Brothers & Sisters』にも入っていて、だから未発表曲とかではないんですが、すごく好きな曲なので入れたかったです。この曲は元々色んな人が演奏していて好きな曲ですが、ある日ラジオを聴いていたらこれがかかって、「すごく良いカバーだなあ」と気になったんですね。そしたらソイルの演奏でした。元晴にそれを話したら、「サマさんが作るコンピならぜひこの曲を入れてほしい」とも言ってもらえて。最近ではライブの最後にこの曲を演奏することも多いみたいで、色んな気持ちを湧き立たせてくれる曲だなと思います。
◇もうひとりのToshizoさんは「UEDA JOINT」の発起人としても知られていますね。
SAMATA:そうですね。ヌカってやつが繋いでくれたもう一人が「トシゾー」(Toshizo Shiraishi)で、今回のCDには彼がやっていた「blissed」というバンドの2曲(「laydown」「Asa Yama Ni Noboru」)を入れてます。ヌカたちのBIG HIP BANDのCDのなかで一曲飛び抜けてかっこいいギターが入っていて、「お前こんなカッコいいギター弾けんのかよ、すげーじゃん」って言ったら、ヌカが「いや、サマさん、それぼくじゃないんです」って言って、それがトシゾーの演奏でした(笑) そこからヌカに紹介してもらって、最初は「ブーガル・バッシュ」(Boogaloo Bash)というバンドでライブをやってもらったのかな。まだblissedが始まる前でした。そのあと、2005年なのかな、「blissed」のデモCD(『SinK UNder laKe』)を貰いました。それに入ってたのが今回のコンピに入れた「Laydown」で、店で流したらもう大ブレイクでした。お客さんたちが皆「この曲だれ?」って気に入っちゃって、「ライブ見たい!」って声が多くて、それでblissedにもライブをやってもらったのをすごくよく憶えています。
*blissed
◇blissedの曲は今聴いても全然色褪せないですし、すごくいいですね。
SAMATA:そうですね。blissedはソイルみたいにすごく売れたわけじゃないけど、日本人のジャムバンドではいまだに最高峰だと思うし、ミュージシャンからもすごく尊敬を集めたバンドですね。今回入れた2曲は今でも聴くし、やっぱり名曲だと思います。特に「Laydown」は、デモCDにしか入ってなかったなんて信じられないですよね。トシゾーは当時上田(長野県上田市)で『UEDA JAZZ FESTIVAL』というイベントをやっていて、2006年からそれが『UEDA JOINT』になるんですけど、そっからまた色んな繋がりをもらいました。トシゾーはそのあともMarterくんとのツアーだったり、1年に1~2回はうちにライブをやりに来てくれてますね。blissedもまたやってほしいですね。
*blissed at GrassRoots Yokohama(2008/9/3 photo by Kunihiko Sasaki)
◇大きい出逢いでしたね。
SAMATA:そうですね。他の人もそうですが、このふたりとの出逢いがとても大きかったと言えますね。元晴とトシゾー。ふたりは、実は一緒に「so-ill」ってバンドもやっていて、それがのちに洋平(三宅洋平)とのバンド「(仮)ALBATRUS」に繋がっていったりもするので、人の出逢いはおもしろいなと思います。
◇(仮)ALBATRUSの話、またあとで聞かせて下さいね。『UEDA JOINT』にはSAMATAさん自身もDJとして出演されていましたね。
SAMATA:そうですね。DJで出れたのも嬉しかったですが、それきっかけでまた出逢いがあったのが嬉しかったですね。
【広がる出逢い、NYからの風 - Chimp BeamsとJP3】
SAMATA:トシゾーはもともとバークリー音楽大学の出身で、ニューヨークにも音楽仲間が多くいたんですよね。2006年かな、『UEDA JOINT』にそうした海外にいる仲間もトシゾーが呼ぶようになって、その時に連絡を貰いました。「サマさんさ、『UEDA JOINT』で日本に来るやつらなんだけど、グラスルーツでもライブ出来ないかな?」って。そうして紹介してもらった一組が「Chimp Beams」でした。
*Chimp Beams
◇そうだったんですね。
SAMATA:Chimp Beamsはブルックリンに住んでる日本人3人組のダブバンドなんですが、実はトシゾーから紹介してもらう前に音を聴いたことがあって、純粋にその音にやられちゃってたんですね。今でも好きな「Menina」という曲が入ってるアルバム(『Menina』)が2006年に出て、当時たしかどこかのお店で…、あ、間違いなくタワーさんだと思いますが(笑)、「NYダブシーンからの1枚」ってPOPを見て試聴しました。すぐに「Menina」が大好きな曲になって、うちの店でもよくかけましたし、お客さんの間でも人気が出ました。blissedの「laydown」の時と同じように、世間ではどうだったかわかんないですけど、店のヒット曲になりました。そんなことがあった時にトシゾーから「『UEDA JOINT』で呼ぶChimp Beamsってバンドのライブもグラスルーツでやらせてほしい」って連絡がきて、びっくりしましたね。ただ、不思議とそうやって繋がっていくことが多いんですよね。
◇そんなChimp Beamsからは「Aquatrium feat.Shing02 (instrumental version)」が収録されています。
SAMATA:今回入れた曲「AQUATRIUM」はChimp Beamsがシンゴ2くん(Shing02)と作った曲のインスト・バージョンです。この曲はプロモーションビデオも思い出深くて、NYで撮影された映像なんですけど、グラスルーツでライブペイントもやってくれたり、もともと付き合いのある「丸倫徳(Michinori Maru)」の絵が写ってたりするんですね。少し話がそれますが、Chimp Beamsと繋がりのあることを知って、シンゴ2くんのライブもいつかうちでやりたいなと漠然と思っていたのですが、それものちのち叶うことになります。
*DJ marihito (Chimp Beams) at GrassRoots Yokohama(「元晴 presents GRASSROOTS SESSIONS」2008/4/27 photo by Kunihiko Sasaki)
◇Chimp Beamsの良さはどういったところを感じていますか?
SAMATA:そうですね、まず「ダブ」というのが彼らのサウンドのキーワードにあると思いますが、日本人ならではのダブだと思います。「Menina」にしてもこの曲にしても、やっぱりChimp Beamsの世界観は他にない独特のものだと思いますし、派手な音楽ではないかもしれないですが沁み込んでくるような魅力がありますよね。
▼Aquatrium - Chimp Beams feat. Shing02
◇同じようにToshizoさん経由で出逢ったバンドは他にもいますか?
SAMATA:オッス。Chimp Beamsと同じようにトシゾーが紹介してくれたのが「JP3」ですね。ドラマーの「中村亮(Akira Nakamura)」、キーボードの「Big Yuki」、ギターの「Takさん(田中拓也)」の3人組。亮はもともとトシゾーと同じバークリー音楽大学の出身で、その頃はNYにいたのかな。Sam Kininger(※Souliveのサックスプレイヤー)とかとも演奏してるっていう話を聞いて、「日本人でもすごい人がいるんだな」と思ったのを憶えてます。ココロ・アフロビート・オーケストラのドラムもやったりしてましたね。
*JP3
◇収録曲はコンピレーションの9曲目、「kokH drive」ですね。
SAMATA:今回入れたこの曲「kokH drive」は、JP3を紹介してもらった時の音源に入ってました。当時たぶん彼らが日本ツアーに来るのに音源をCD-Rとかで作って、ライブ会場で手売りしてたんじゃないかな。だから、これも貴重といえば貴重です。レア音源ですね(笑)。
◇音の印象はいかがでしたか?
SAMATA:彼らの音を聴いた時に、なんて言うんですかね、日本人のバンドとは違う洗練されたものを感じました。自分はよく「NYっぽい」って言っちゃうんですけど。Chimp Beamsもそうでしたが、サウンドがすごく洗練されてて、今聴いてみても他にないオリジナリティを感じますね。それからライブ感っていうんですかね。音源なのにまるで目の前でライブをやっているような印象で、衝撃でしたね。ドラムとギターと鍵盤、3人が本当に音で会話しているようで、「どうだ!」っていうかんじや「調和」していくかんじが音から見えてくるようでした。セッション感というか。それぞれがアドリブでソロを回して、キメのフレーズがいくつかあるというのはジャズのライブでもそうかもしれませんが、それがさらにかっこよくなった印象を受けました。日本人で、こんな雰囲気のこんなかっこいい演奏をする人がいるんだなってすごく驚きましたし、ライブを見てみたくなりましたね。
◇コンピレーションの9曲目から10曲目、JP3のダイナミックな「kokH drive」からblissedの美しい「Laydown」へという流れは、このコンピのひとつのハイライトかなと感じました。「動」から「静」というか。
SAMATA:オッス。すごく嬉しいですね。コンピは選曲だけじゃなく曲順にも自分なりにこだわりを込めたので、そう言ってもらえるとすごく嬉しいです。普段店で音楽を流していて、どういう時間にどういう流れで曲をかけたら気持ち良いか、お客さんに「!」と思ってもらえるかとか、それこそ色んな飲食店の先輩に教えてもらってきましたし、自分でも気をつけているところですね。
◇そうなんですね。色んな曲が入っているのに、すごく楽しんで聴けたのはそんな選曲の魅力もあるのかもしれないですね。実際にお会いしたJP3のメンバーはいかがでしたか?
SAMATA:JP3は会ってみるとメンバー3人の人間性も抜群で、すぐ好きになりました。それから、演奏ですね。トシゾーや元晴もそうですが、音源だけじゃなく、やっぱりライブを見てその凄さを感じました。セッションというかアドリブ、演奏力の高さが凄いんですよね。JP3としての活動期間はすごく短かったみたいなんですが、3人のメンバーはそこからそれぞれ、本当に大げさでなく世界を舞台に活躍してて、特にドラムの亮はそのあと日本に住んで、うちでも色んな人たちと色んな編成でライブをやってくれてます。店の周年イベントとかにも出てくれてますね。今はドイツに住んでるのかな。またぜひライブをやってほしいですね。
*Akira Nakamura at GrassRoots Yokohama(「WESTLAND バークリー音楽院同窓会NIGHT」2009/08/20 photo by Kunihiko Sasaki)
【SAMATAさんの 音楽遍歴と「グラスルーツ」】
◇コンピの話から少しそれて、SAMATAさん自身の話を聞かせて下さい。
SAMATA:オッス。
◇音楽はどういったものを聞かれてきましたか?
SAMATA:コンピレーションに入っているのは「インスト」という歌のない曲が多いですが、元をたどれば19歳の時に「Grateful Dead」を聴いたのがやっぱり大きかったですね。「ジャム」とか「ジャムバンド」っていうものにもそこからハマっていきました。
The Grateful Dead / American Beauty (Tower Online)
◇特にどんなところに惹かれましたか?
SAMATA:デッドはアルバムごとにスタイルが全く違っていたり、やるライブごとに演奏曲目を変えていたり、同じ曲でも全然違う風に演奏したりしてましたから、そういうところですかね。「今回はどんな曲が演奏されて、どんなアレンジになるんだろう?」というふうに、毎回変わる演奏を聴きたくてライブに足を運ぶ。そういう、「音楽を生で観る楽しみ」も彼らに教えてもらいました。歌がない曲でも、ミュージシャン同士がステージ上で目と目で会話して、笑い合いながら音をどんどん展開していく、そんな姿にすごくハマりました。オールマン(Allman Brothers Band)とかも目茶苦茶聴いてましたね。若い頃は地元(逗子・鎌倉)の先輩に音楽を教えてもらったり、「FEN」っていうラジオ(米軍が駐留する地に設けられた基地関係者とその家族向けの放送局)でもすごくたくさんの音楽を知りました。バーや洋服屋に通って人に教えてもらったのも大きいですね。横浜にあった「Buddy」、藤沢にあった「ガレージセール」、それから「サリーズ」とか、よく行ってましたしお世話になりました。
◇当時は今のように情報がなかなかない時代ですもんね。
SAMATA:本当そうですね。インターネットやCD-Rですらまだない時代でしたからね。CDは渋谷にあった「IKOIKO(アイコアイコ)」っていうCD屋さんでよく買っていました。DJのOSUGIさんが働いていて、本当に多くの音楽を教えてもらいましたし、そこでしか売ってないようなCDがたくさんありましたね。
◇当時聴いていたのはどんなバンドですか?
SAMATA:その頃は外国人のバンドをよく聴いてましたしライブも観に行ってましたね。いわゆるジャムバンドですよね。Steve Kimock Bandやメデスキ(Medeski Martin & Wood)とか、よく聴いてましたね。自分で店を任されるようになってから、そういうバンドのライブを出来たらいいなと思ってましたし、実際にLotusがうちでライブをしてくれました。日本人でうちでやってもらったそういう系のライブは、最初は「渋さ知らず」、それから「Dachambo」でしたね。
Steve Kimock Band / Eudemonic [Digipak] (Tower Online)
Medeski Martin & Wood / Uninvisible (Tower Online)
◇さきほどGrateful Deadのお話にも出ましたが、アドリブというかセッション性みたいなものがジャムバンドのライブのひとつの醍醐味ですよね。
SAMATA:そうですね。元晴とかトシゾーとか、中村亮やCro-Magnonの3人とか、集まったらいつもセッション演奏を聴かせてくれますからね。自分が聴いてた外国人のジャムバンド達と同じように、日本人でもそういうふうに目と目を合わせて音楽を演奏出来る人達がいるんだって知って、すごく嬉しかったですね。しかも、そんな「シーン」が店にも出来ていきましたからね。
◇当時、音楽シーンのなかでも「ジャム」はひとつの流れになりましたね。
SAMATA:そうですね。『UEDA JOINT』があって『nbsa+×÷』があって、その前には『Organic Groove』とかもありましたもんね。だからまあ、そういう「時代」だったんじゃないかなと思います。歌がなくても、音だけで楽しめる音楽が広まっていった時代。店にもよく来てくれる菊地崇さんが『Balance』を経てフリーマガジン『Lj』を始めたのもその頃でしたし、フェスとかも一気に増えていきましたよね。
◇お店でもそういう熱は感じていましたか?
SAMATA:そうですね。横浜では Naoki ってやつが『濱jam祭』というイベントを始めたり、Buddyの店長だったダイスケが京都のsoftをサムズアップ(Thumbs Up)に呼んだり、SPECIAL OTHERSが出てきたりしましたよね。おもしろい時代でしたね。そういった流れの前も後も、店ではずっと変わらずにこのサイズで不定期にライブをやったりしてますが、仲間たちによる『nbsa+×÷』が2008年にはAgeHaで、2010年にはベイホール一帯の3店舗で開催されたり、すごく大きな動きにもなったりしましたからね。今回のコンピに入っている曲の半分くらいは、その時の「動き」を思い出させたりするような曲かもしれないですね。もう半分は、そこからまた出逢っていった人たちになりますが。
◇おもしろいですね。まさに、グラスルーツというお店がひとつの「シーン」でもあったわけですね。
SAMATA:自分たちはただこの規模で続けてきただけですが、そう言ってもらえるのは嬉しいですね。
◇お店でのライブイベントには何かこだわりはありますか?
SAMATA:グラスルーツは基本は「飲食店」だと思ってます。毎日ライブをやる「ライブハウス」じゃないし、逆に、毎日ライブはやらなくていいと思ってますね。ライブハウスやクラブに通うような音楽好きな人だけじゃなく、サラリーマンや色んな人にお店に来てほしいですし、そういう、自分の知らない世界を見ている人と話すのが楽しいんですよね。そういう人に、今回のコンピに入れたような音楽を知ってもらえるのもまた嬉しいことだなと思って日々営業しています。だからぜひ、お店にも足を運んでほしいです。コンピの感想とかを聞けるのもまた楽しみですね。
◇こうして改めてお聞きしていくと、Grateful Deadに衝撃を受けてから色んなことが繋がって実現していったことがよくわかりました。なんだか不思議なものですね。
SAMATA:本当にそうですね。だから、もし自分が店をやり始めた頃にこのCDを知ったら、「すげーじゃん、こんな日本人がいるのか! この人たちのライブをうちでやりたいな!」って絶対思ったでしょうね(笑)
≪写真提供:Kunihiko Sasaki≫
≪取材協力:GardenGrove≫
(後編へ続きます)
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